October, My Month

ディラン・トマスDylan Thomas)の詩
「ことに十月の風が」(Especially when the October wind)の第四連

  Especially when the October wind
  (Some let me make you of autumnal spells,
  The spider-tongued, and the loud hill of Wales)
  With fists of turnips punishes the land,
  Some let me make of you the heartless words.
  The heart is drained that, spelling in the scurry
  Of chemic blood, warned of the coming fury.
  By the sea's side hear the dark-vowelled birds.


手元に四つの訳がある。
(1) ことに十月の風が
   (なにかよ ぼくに秋の呪文で、蜘蛛の舌をもつもので、
   ウェールズの鳴り響く丘で、きみをつくらせよ)
   蕪菁の拳で大地を罰するときは、
   なにかよ ぼくに心をもたぬ言葉できみをつくらせよ。
   小走りの錬金の血に文字を綴りながら、
   来たるべき怒りを警告した心臓は涸らされる。
   海辺には暗い母音のはいった小鳥の声を聞く。


(2) ことに十月の風が
   (なにかよ ぼくに秋の呪文で、蜘蛛の舌をもつもので、
   ウェールズの鳴り響く丘で、あなたををつくらせてください)
   蕪の拳で大地を罰するとき、
   なにかよ ぼくに心をもたぬ言葉であなたををつくらせてください。
   小走りの錬金の血に文字を綴りながら、
   来たるべき怒りを警告した心臓は涸らされる。
   海辺には暗い母音をもつ小鳥の声を聞く。


(3) ことに十月の風が
   (なにかよ ぼくに 呪文で、蜘蛛の舌をもつもので、
   ウェールズの鳴り響く丘で、あなたををつくらせてください)
   蕪の拳で大地を罰するときは、
   なにかよ ぼくに 心をもたぬ言葉であなたををつくらせてください。
   小走りの錬金の血に文字を綴りながら
   来るべき怒りを警告した心臓は、涸れる。
   海辺からは暗い母音の小鳥の声が聞こえてくる。


(4) とくに十月の風が
   かぶらの拳骨で地面をこらしめるとき
   (なにかよ お前を秋の呪文 蜘蛛の舌をもつもの
   ウェールズの騒々しい丘で歌わせよ)
   なにかよ お前を非情な言葉で歌わせよ
   化学的な血の小走りで文字を書き
   こみ上げる激情を警告した心も いまはからっぽだ
   さあ 海辺で暗い母音の小鳥の声を聞け


それぞれの訳は、
(1)松田幸雄「世界詩人全集19 オーデン、スペンダー、トマス詩集」新潮社、1974年刊
(2)松田幸雄「双書・20世紀の詩人11 ディラン・トマス詩集」小沢書店、19994年刊
(3)松田幸雄ディラン・トマス全詩集」青土社、2005年刊
(4)松浦直巳「ディラントマスの詩の解釈と鑑賞 緑の導火線」昭和堂、1980年刊


もともと二重三重の意味が込められているディラン・トマスの詩だが、ここにあげた訳ではほぼ同じイメージでとらえられている。違いは日本語の部分だが、同じ訳者でも時間の経過とともに変化しているのがわかる。
日本語として一番こなれているのは(4)松浦訳のように思う。
でもね、(3)松田訳で「autumnal spells」から「秋の」が消えているのはなぜだろう。
あるいは最終行の微妙な違いはまだまだ新しい訳が生まれそうな気配がする。